奈良の正倉院です。中には日本の伝統そのもののような重要な財宝が収められていますね。1000年以上もの間、日差しや湿気から財宝を守ってきました。秘密はこの建物の特徴でもある高床式の床と校倉(あぜくら)造り及び板倉(いたくら)造りの壁でした。建物に向かって正面中央が板倉(いたくら)造り、左右が校倉(あぜくら)造りです。こうした独特の構造をもった床と壁は日本の風土の特徴である湿度が高いことへの対策でした。
それから実は、もう一つ秘密があります。それは財宝は朝廷の勅使がない限り開封してはならないという制度です。何人たりとも、天皇の命がない限り財宝を開けることができなかったのですね。高床式の床が物理的に財宝を守ったとすれば、おそらくこの制度は精神的なバリアとして正倉院を守ったのでしょう。
長い日本の歴史において天下をとった人物の中には、この正倉院の財宝を我が物にしようとした者が幾人かいます。例えば足利義政と織田信長は「らんじゃたい」という香木を狙いました。彼らはその一部切り取っています。天下人である事実を、日本で最高の財宝に手つけて示すデモンストレーションでした。
さて、この正倉院は間口33m、奥行9.4m、高さ14m、ひのき造りの木造建築です。760年頃につくられたことが記録で確認されています。正倉院は東大寺という巨大な寺院の倉庫として使われた建築物で、当時は複数の正倉が存在していました。しかし火事や戦災で失われ、唯一残ったのがこの建物でした。明治時代になって政府の監督下に入り、戦後は宮内庁が管理しています。財宝の保存状態は非常に良いようです。
過去の一覧
<その6> 読書ノート
75 反=数学の立場
74 西洋化のタイミング
73 サーリネンの教え
72 アゴラとモビリティ
71 ケプラーの夢
70 「近代音楽」
69 セザンヌのすきま
68 ARCHIGRAM
67 TIME and timing
66 カントとヘーゲル
65 自然と社会
64 24コマ/秒 の真実
63 ドゥルーズの思い出
62 20世紀の大音楽家
61 知覚によらない幾何学
60 方丈の家
59 森の消滅と再生
58 木植え名人の教え
57 エロティシズムと生
56 野口晴哉の風邪解釈
55 アスプルンドの想い出
54 建築と心理
53 モホリ=ナギの透明
52 実験の場は劇場
51 コールハースは質問魔
50 都市のパターン
49 プラトン「饗宴」より
48 複雑性ダンス振付け師
47 不可逆的な進行
46 ゲーテのイタリア紀行
45 「人間」は消滅する
44 フォーサイスの世界
43 ブーレーズの主張
42 日曜日とは
41 バークの言う崇高とは
40 デュシャンの定義
39 ホアン ミロ
38 デカルトの方法序説
37 祖先のおかげ
36 音楽の本質
35 非対称な世の中
34 音さがし
33 映画について
32 構造と真実
31 図面が描けないとだめ
30 18世紀の自然と自我
29 批評と近代
28 建築家の地位
27 カーンの言うフォーム
26 ゲニウス・ロキ
25 FLライトの大ボスぶり
24 モジュロール
23 夏をむねとすべし
22 コートハウスとは
21 伊東豊雄の駆出し時代
20 安藤忠雄の初心
19 自然について
18 実存的空間
17 理想的ビラの数学
16 畳はアンタッチャブル
15 形態を考える際に
14 プラントハンター
13 ニュートンの考えた重力
12 信長の宗教観
11 信長の道普請
10 透かす
09 古い民家の癒し力
08 less is more
07 あらゆる部分
06 数学と図形
05 コルビュジェのアトリエ
04 観念
03 張力の海
02 使いつくされる建築
01 自然の波動