18世紀の自然と自我

<神>という超越的価値を失った18世紀は、新たな超越的価値を求め、価値合理的な<自我>の確認と自己超越をめざした。自然との距離がここでは無限に拡大される。無限大の自然と無限小の<自我>とのめくるめく距離が<自我>を畏怖させ、その畏怖が反転して自己超越をめざす熱狂となるのである。これは19世紀のロマン主義へと連なる方向でもあった。このような超越志向を代表するのが<崇高>の美学である。そそりたつ高山や底知れぬ深淵といった、人間には制御しがたいスケールをもつ<崇高>な自然が現れてくる。ブレやルドゥーらの構想した<ビジオネール>様式の建築に見られるあの<空間の爆発>こそ、それを象徴するものなのである。樋口謹一

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