5. 建築のエッセンス

自分の居場所

建物は動かない。何十年、何百年、ずっと同じ場所に存在している。その場所となにより強く結びつき、人間のこころのよりどころになります。時間が流れ、記憶を得る、その大切な場所です。もちろん、身を守ってくれる場所であることはいうまでもありません。 …

ヒューマンスケール

ヒューマンスケールとは、建築やまちに対して、大きさに違和感がなく身近に感じ、その細部を十分把握できると思えるようなスケール感でしょうか。人間の感覚的な尺度だと思います。我々は目の前のものが、自分の身の丈に合っていると、安心するものです。例…

プライベートとパブリック

建物の機能にはプライベートとパブリックの色分けがあります。寝室や居間はプライベート、駅や広場などはパブリック。実際の建築物を設計するとき、この色分けは部屋のレイアウトや動線計画などに大きく影響します。ここでプライベートとパブリックという分…

まちなみ

建物が1つたっていてもまちなみにはなりません。まちなみはいくつもの建築物が一体となってつくりだされるものです。例えばある地域に建築物をたててゆく時、何らかのルールがあると、そこにまちなみが生まれてくるものです。そのルールは法律で決められた…

床は実用的な働きを担っています。同じ建物の部分でも、壁や柱は文学的な意味で使われたり、何かの象徴になったりします。「嫌いな人には壁をつくって無視をする」「父は一家の大黒柱」など壁や柱が比喩として用いられる例を、我々はすぐ思い出すことができ…

芸術と工学の両立

現代の建築家は芸術と工学、両方の能力が求められます。 建築物はとにかく人間のサイズよりは大きいものですから、目立ちますね。外観がきれいで、前を通る人が不快な気分にならないような設計をしなくてはいけません。例えばクライアントの希望が、目立って…

「死」

「死」んだ建物には時間がありません。あるいは時間が経たない。したがって未来もないのです。建物が「死」の状態にあるとき、他者とのすべての関係が断ち切られています。誰も訪れない、何も起きない。記憶にも存在しません。 建物の一生は「死」で初まり、…

記憶

記憶は人間がこころに刻むものです。人間と人間のかかわりで、あるいは建築とのかかわりで記憶は刻まれます。そして、記憶は五感を伴っていることが多いですね。例えば親友と2人で登山をした。共に過ごした記憶は、道みちの暑い日差し、木々のあざやかな緑…

「建築とは何だ」と問うたとき「窓があるもの」という答えは非常に説得力がありますね。窓は建築にとってもっとも重要な部分です。ここでは窓について考えてみましょう。 まず第一に窓は壁に開けた「孔」ですね。この「孔」によって内部空間が成立するのです…

オリエンテーション

オリエンテーションとは簡単に言えば配置計画です。もう少し細かく言うと、太陽の昇る方角に建物の正面を配置するとか、教会建築なら祭壇のある部分を東に配置するなど。または建物を設計するとき、建築物を敷地とどのように関係付けるか、逆に敷地からどん…

屋根

屋根は建築物を雨や日差しから守る働きをしています。また、人間の背丈よりは必ず高いですから周囲から目立ちます。そして、そのかたちが三角形であったり、色が黒や茶色だったりすれば、建物のある位置を知らせる働きももってきますね。 一方、屋根にはその…

飛翔する時間

人間とともに生きる建物はそれぞれ独自の時間をもっています。それは人間と建物の関係の中で醸成されてゆきます。 人間は建物から感じ取ります。いくつもの自分の時間を。それらはゆっくり進んだり、止まったり、また急に早く流れたりする。そればかりか、突…

「生」

建物にも「生」はあります。それは我々人間が与えるものです。建物は人間に使われているうちに、人間の生命力がしみついて「生」を醸成してゆくのです。日常生活の臭い、信仰心、情熱。憎しみ、恨み。幸せ、笑い、寂しさ。こうした様々な人間の命の痕跡が建…

ゲニウス・ロキ

ゲニウス・ロキとは「地霊」という意味です。ゲニウスが「守護霊」、ロキが「場所」を表すラテン語のようです。つまり、ゲニウス・ロキはその場所の守護霊といった意味ですね。 日本で建物をたてるときに行う地鎮祭は、ゲニウス・ロキへ向けたささやかな神事…

水平線

水平線は重力によってつくられます。地面と平行な広がりには万遍なく重力が作用し、その方向は垂直です。水平線は常にこれと垂直な方向に形成されますね。したがって重力の作用方向を常に必要し、それに対するものとして存在している訳です。水平線の背後に…

幾何学

幾何学はかたちを決めるための道具です。建築にとって幾何学はイメージやアイディアを可視化するために必要不可欠なものですね。コンセプトを目に見えるようにするには、幾何学の助けがどうしても必要です。 一般に人間が美しいと感じるかたちには黄金比が含…

用強美

この言葉は建築のもつべきはたらきを端的に表しています。古代ローマの建築家ウィトルウィウスが最初に言ったとされていますね。建築の本質に最短距離で近づける大変便利なキーワードでしょう。 「用」とは実際に人間が使えて役に立つものであること。建物は…

抵抗の形式

大地に一本の柱をたてること。そして、その意味を問う。これが「建築」という行為のすべてです。「建築」することはこれで尽きています。 大地に柱をたてる行為は、人間をとりまく「大自然」に対して挑戦することを象徴しています。また同時に、人間社会に対…

人工と自然

建物は、自然に抵抗して人間が生きるために必要な道具です。建物は人類がつくりだした人工物であり、原始的なものから先端技術を応用したものまで幅広い種類が存在しています。一方、自然は、人間をとりまくいろんな環境です。人間の手が及んでいないものを…

動かない

建物は動かない。一度その場所に建ててしまうと、もう簡単には動かせない。これは建物の大きな特徴です。秋でも冬でも1年中、朝でも夜でも24時間、そして雨の日でも風の日でも。建物はいつでもその場所に存在しています。場合によっては解体して移動させ…