5. 建築のエッセンス

本と建築

本はメディアです。建築はこの本というメディアの力を使うことで、土地に定着して動けないという宿命から解き放たれ、自由に移動することができるのです。時間と空間を超えることさえ可能だと言っていいでしょう。そうした例を過去に見ることができます。 例…

距離と時間

距離と時間はどちらも伸び縮みする性質があります。それは、実際の距離を自分で歩いたとき、時と場合によって長く感じたり短く感じたりする経験から分かるような性質ものです。つまり距離は人間の感覚で捉えようとすると伸びたり縮んだりする、物理量とは別…

人間のおもい

人間のおもいとはものを大切にするこころです。おもいやりですね。建物はそれを受け取り、刻んでいます。そして今度は逆に人間が建物からおもいを受け取る。生きた建物と人間の関係はこういうものです。使う人の気持ち、おもいは、建物にとってかけがえのな…

風土

風土によって建物のつくり方が変わります。一つその原因を挙げるとすれば、それは湿度でしょう。ヨーロッパとアジアの建物のつくり方を単純化して較べてみます。 湿度の低いヨーロッパでは石を積み上げてまず壁をつくります。閉じたスペースが立ち上がっても…

祭り

祭りは非日常の行為です。祭りは破壊への衝動を内に秘めています。建築に近づけて考えると、建設行為の逆が祭りではないでしょうか。祭りも建設行為も、多くの人々が協力しないとできない社会的行為である点は共通ですが、エネルギーの向かう方向が逆のよう…

意識の中の時間

建物は動かない。いつでも同じ場所に建っている。このことの裏側に「意識の中の時間」が存在しています。これは建物で起きるさまざまな出来事と関係があるものです。 動かず、同じ場所にある建物を背景にして出来事は起こります。人間にとって「意識の中の」…

空間とは

建築の空間には2種類あります。1つは計量できる空間。もう1つは人間の五感と身体全体で知覚する空間。空間の定義はきわめて多様でさまざまな見方があると思いますが、このようにちょっと単純に考えてみた方が明快な視点が持てると思っています。 さて、前…

柱の役割は梁や床を支えることです。梁や床を常にその位置に保ちながら、上部にある屋根や壁、床などの重量を負担し力を地面に伝える働きをしているのですね。力学的に見ると柱は上部の応力を下部に伝達する機能を担っています。柱は力が流れる「パイプ」で…

様式の誕生

エジプト、ギリシア、ローマと建築の様式を時代順に一覧する視点が確立したのは18世紀末のことです。これが様式の誕生です。 18世紀はマニュアル化の時代でした。自然科学の分野ではデカルトやニュートンの理論がフランスの啓蒙時代を通して汎用化しました。…

様式の寿命

我々が知っている様式は近代になって出てきた「建築」や「歴史」という概念を通過して、わかりやすく定式化されたものです。その誕生は18世紀です。 例えばギリシア様式は今から2000年以上前の建築の意匠ですが、当然ギリシア時代の人は自分たちがつくった建…

自然発生したわけじゃない

集落や都市は建物同様、自然発生したわけではありません。誰かの意図と意志によって最初の礎が築かれていることが、調べてみると多くの場合わかります。集落や都市は長い時間をかけて自然発生的に成長してきたような印象を受けることが多いですが、人間の必…

豊かな空間

豊かな空間は表情がさまざまに変化して設計者にも思いもよらない場面が現われます。ポイントは表情が変化するという点です。その要因を2つ挙げてみましょう。 1つは自然光。自然光は窓から建物の内部に入り、生き生きと彩ってそこだけの空間をつくりだしま…

構築すること

「構築すること」は建築と同義ではありません。建築=アーキテクチャーの語源を調べてみるとその理由がわかります。ア−キという接頭語には「首位」という意味が、テクチャ−には「技術」という意味がありますから、アーキ+テクチャーで「首位の技術」あるいは…

「大自然」と都市

都市の中には、もはや制御不可能な怪物的変貌をみせているものが存在します。東京や中国の開発中の都市はその一例です。自動運動をする得体の知れない巨大な集合体。それはおそらく人類が経験したことのない謎の現象と言っていいかもしれません。全体像は誰…

社会的サインとしての外観

建物の外観は社会的サインです。外観を見てそれがなんの建物か分かるようにするのは、まちの公衆道徳です。そのために必要なサインを出さなくてはなりません。多くの場合、建物の外観がその役目を持っていますね。 逆に中身のわからない建物がまちに1つあっ…

すべて固有解

敷地の条件はすべて異なります。したがって、そこで設計した建物のプランはすべて固有解ということになります。名作と言われる建物でも、その敷地にあってこそ名作であって、建築家のアイディアはそこでしか成り立たないはずだ、というのは一つの真実です。 …

ものと形式

長い永い時間に耐えて、今でも存在している建築物には何らかの秘密があるはずです。1000年、2000年という我々には実感できない永い時間、その同じ場所に建ち続けていられた理由を知りたいものですね。「ものと形式」という視点でそれを考えてみたいと思いま…

あらがうのが建築

自然に対して「あらがう(抗う)」のが建築の本分です。自然に抵抗することですね。これは、環境を破壊しないで建築することは不可能だということを意味します。環境にやさしい建築とか自然と共生する建物といったスローガンを言う前に、この事実をしっかり見…

水平と垂直

「垂直」は重力によって決定されます。地面に対して重力の作用する方向が「垂直」です。そして「水平」は「垂直」に対して直角方向で定義されます。「水平」は常に2次的です。ここで重力の存在は絶対的です。 地球上のすべての場所でこの過程が繰り返されて…

集まって住む

人間の営みを原始的に考えると、集まって住む習性は一つの大きな特徴です。地球上の他の生物の中には、単独で暮らしている種類は多いですね。そんな中、人間は様々な形態をとりながら、複数のヒトが同じ場所に集まって住んでいます。 このヒトが「集まって住…

最後に残るのは寝る所

我々が日々生活を送っている住居には、寝室、トイレ、台所、居間など住手に最低限必要な機能があるはずです。都会で暮らす場合は、近年の様々なサービス産業のおかげで、自宅に風呂や台所がなくても不自由しないで暮らせるようになっていますね。 ところで人…

大自然

自然と区別して「大自然」という概念を想定して建築について考えてみようと思います。まず最初のとっかかりとして、「大自然」は「建築」という概念の外側にあって、それぞれ個々の事例として見つけ出せるようなものだとしましょう。「大自然」といった時、…

自重との戦い

おおざっぱなイメージですが、建物は自分自身の重さを自らの骨組みで支えられさえすれば、それでオーケー。あとは、そのままずっと建っていられます。つまり自重を自ら支えられることが、建築物として成立するための第一条件です。この当たり前の事実は、鉄…

寸法

建築で使う寸法は人体と地球のサイズに基づいて決められました。インチ、フィート、ヤードの単位系と日本の尺貫法は人体が基準。メートルの単位系は地球の大きさが基準です。それぞれの単位系は相互に無関係です。もちろん換算すれば対応させることは容易で…

象徴としての建築

「建築」は元来、象徴となる性質があると考えられます。現実に地面にたっている建築物は、単純に人間に比べて大きいという理由だけで、いやでも何らかの象徴作用をもってしまいます。逆に、象徴にならないようにするほうが難しいかもしれません。一方、概念…

建物の支配

人間は知らないあいだに建物に支配されています。人間は建物に対して受動的です。出入りするところ、歩くところ、登るところなど、人間の行為はドアや通路、階段によって規定されています。もうちょっとドアが手前にあれば便利なのにとか、通路を広くとか、…

メディアにのった「建築」

メディアは情報を伝達する装置です。そして「建築」はそのメディアにのって時間や空間を移動するんですね。メディアにのった「建築」のよい例が2つあります。一つは16世紀イタリアのパッラーディオの「建築」。もう一つが20世紀フランスのル・コルビュジェ…

建築様式

建築の様式は建物の外観に表現されるものです。建物の意匠です。そして様式が生まれた場所はエジプト、ギリシア、アラビア、ペルシャ、インド、中国など一カ所ではありません。日本でも建築様式は生まれています。平安時代の寝殿造り、室町時代の書院造り、…

太陽

太陽は生命力の源です。人間と建物にとって第一に大切なものです。地面に定着している建物が動かないのに対して、太陽は刻々と動きます。そして建物は太陽の運行に大きな影響を受けますね。東から登った太陽が西に沈む。この毎日繰りかえされる単純な動きが…

一期一会の建物つくり

建物を実際につくるには多くのプロの参加が必要です。建設会社や工務店の現場監督さんをはじめ、鉄筋工さん、型枠大工さん、電気工事の人、板金職人さん、コンクリート打ちの人などいろんな専門のプロが参加します。これは建物が住宅か、高層ビルか、など種…