様式の寿命 2004.11.16

USA Capitol

アメリカ合衆国の国会議事堂です。1793年に計画が始まり、工事は段階的に進められて建物全体が完成したのは1865年でした。中央のドームをデザインしたのはトーマス・ワルターです。見事な古典建築ですね。ドーム自体はブルネレスキやミケランジェロを、正面の列柱やペディメントは古代ローマの国会議事堂を参照したことが読み取れます。外見はこのように堂々たる古典主義のデザインですが、建物の構造は鉄骨です。この時代すでに鋳鉄の使用が可能でした。興味深いのは、建設技術はすでに鋳鉄で巨大ドームをつくれるほど進歩していたにもかかわらず、建物のデザインは過去の建築を真似していたという事実です。つまり、つくる技術はあってもどんなかたちでつくればいいか、建築の持つべき姿については過去を参照せざるを得なかったということですね。この「建築の持つべき姿」が古典主義の様式です。
ところで、古典主義に関しても18世紀後半に大きな変化がありました。建築は古代ギリシア、ローマをはじめとして、各時代ごとに独自の様式をもっています。ところが18世紀後半、フランス革命の頃になると新しい様式が生み出されなくなってしまったのです。ロココ様式を最後に、現代に至るまでオリジナルの様式は出ていません。ということはアメリカの国会議事堂が計画されていた頃は、すでに古典建築は終わっていたのですね。本来なら、アメリカの国会議事堂という新しい時代を象徴するような建築は、新しい様式でデザインされてしかるべきだったのです。しかし当時の建築家に可能だったのは過去の様式を参照することでしかありませんでした。彼らは自分たちのスタイルは不完全で十分な真理が宿っていないのではないかという疑いを持っていたのです。それで過去にあった本物を追求し、その中からふさわしいスタイルをピックアップしたのですね。こうした事態を建築家の意識から見ると、建築の真理をとらえるために、スタイル=様式の「過去」を遡って追求しようとする姿勢があったことが分かります。