意識の中の時間 2004.11.20

3 International Tower

これは第三インターナショナル記念塔の模型です。第三インターナショナルとは、別名コミンテルンといい、第一インターナショナル第二インターナショナルについで組織さた労働運動の国際的組織です。第一、第二と異なる点は、結集した人々が共産主義を掲げていたことにあり、彼らは社会主義思想から離れて労働運動を開始した連中でした。第三インターナショナルは1919年、レーニンによって創設され1943年まで存続しています。その運動を鼓舞するために計画されたのがこの記念塔でした。デザインしたのは建築家ウラジミール・タトリンです。写真で見るように傾いた支柱と螺旋状の構造体からなる過激なデザインです。計画ではエッフェル塔より高いものになるとされています。しかし実際に建てられることはありませんでした。どうも技術的裏付けなしでデザインしたようです。
模型は6m以上あり、1920年モスクワやペテルブルクで展示されたという記録があります。図面は現存せず、この記念塔の内容を知る手がかりは雑誌か新聞に掲載されたプロジェクトの紹介記事しか残っていません。計画の概要と2枚のイラストのみです。それによると、第三インターナショナル記念塔は螺旋状の構造体内部に3つの立体が吊るされ、その内部にさまざまな施設が収容されるという構成でした。塔全体の軸となっている支柱は地面に対して傾いていて、その角度は地球の地軸の傾きに一致させてあります。そして吊るされている3つの立体は下から立方体、ピラミッド、円柱で、螺旋状の構造体内部においてそれぞれ1年に1回、月に1回、1日に1回ずつ回転するように計画されています。そして各立体は全体がガラス張りで、内部に会議場、行政機関、報道センターなどが計画されました。このように第三インターナショナル記念塔は実現する見込みのない非常にシンボリックなモニュメントだったのです。
この記念塔の時代背景を考えてみると、社会が激変していたことが特徴です。ロシア革命に始まった社会変革はこの時代を生きた人々にさまざまな意識改革をひき起こしました。塔の内部の立体が周期的に回転するのは、この過激なモニュメントが時を刻む装置であったことを暗示しているような気がします。時代が変わり、意識が変わる。それに応じて塔は回転して時を刻むのです。一人一人の人間にとってモニュメントが意識の中にある時間の感覚をセレブレイトしてくれるものとなれば、デザインは成功だったと言えるでしょう。その意味で第三インターナショナル記念塔は歴史になった未完の大作でした。