部分と全体 2004.12.01

Cezanne

セザンヌの「ローブから見たサント=ヴィクトワ−ル山」の部分詳細です。彼はこの絵を書いた1906年に亡くなります。セザンヌの存在は19世紀の印象派と20世紀の現代美術をリンクさせる極めて重要なものとなりました。光と色彩をありのままに描いた印象派に対して、セザンヌは秩序と構築を重視しました。円柱や球などの単純な立体を構図の下敷きとし、描く対象を堅固に構成することを目指したのですね。印象派の絵画は描く対象の見え方を画面に反影させます。一方、セザンヌが重視したのは「印象」ではなく「構築」でした。したがって「部分」によって「全体」を組み立てようとする意図があったのですね。
ところで、もう一つセザンヌの描き方に特徴的なことがあります。それは絵を完璧に仕上げないことです。すべての作品がそうではありませんが、セザンヌらしい作品、特に水彩画では、多くの作品において画面に隙間を意識的に残しているのです。物と物、色と色の間に隙間が残してある。余白までべったり塗りつぶさないで、微妙な塗りのこしが散在しています。これをどう解釈するか。例えば、この隙間によって「全体」へ向けて「構築」する複数の可能性が暗示される。そして、絵が与えるインパクトに豊かな幅がでてくる。こんな見方ができるかも知れません。そしてこの見方に従えば、隙間を残すことは「部分」と「部分」の関係を確定しないことを意味しますね。セザンヌの隙間は「構築」の多様性を生み出す意図的な技だという訳です。