セザンヌ最晩年の作品です。「ローブから見たサント=ヴィクトワ−ル山」というタイトルが付けられています。彼はこの絵を描いた1906年に亡くなりました。
セザンヌの存在は19世紀の印象派と20世紀の現代美術をリンクさせる極めて重要な役割を果たすものと考えられています。
セザンヌが重視したのは「印象」ではなく「構築」でした。光と色彩をありのままに描いた印象派に対して、セザンヌは秩序と構築を重視したのです。彼の手法は一般に、円柱や球などの単純な立体を構図の下敷きとし、描く対象を堅固に構成することを目指したと考えられています。
これに建築的な解釈を加えれば、セザンヌの手法は「部分」によって「全体」を組み立てようとする意志に貫かれていたということもできるでしょう。
こうした彼の特徴は、この一枚の絵からはなかなかイメージできないと思いますが、何枚もの作品を通して見れば全体的な雰囲気はつかめるかも知れません。
ところで、もう一つセザンヌの描き方に特徴的なことがあります。それは絵を完璧に仕上げないということです。余白を残す描き方ですね。水彩画に多くの例を見つけることができます。
これをどう解釈するかは興味深い問題です。例えば、この余白によって「全体」へ向けて結ぶイメージが複数の可能性暗示される。これによって、絵が与えるインパクトに豊かな幅がでてくる。こんな風に考えることもできるでしょう。
セザンヌは「構築」と「余白」の巨匠です。