44/75 古典主義の呪縛

ken1062007-02-28

アメリカ合衆国の国会議事堂 United States Capitol です。1793年に計画が始まり、工事は段階的に進められて建物全体が完成したのは1865年でした。中央のドームをデザインしたのはトーマス・ワルター Thomas U. Walter です。見事な古典建築ですね。ドーム自体はブルネレスキやミケランジェロを、正面の列柱やペディメントは古代ローマの国会議事堂を参照したとされています。
外見はこのように堂々たる古典主義のデザインですが、建物の構造は鉄骨です。この時代すでに鋳鉄の使用が可能でした。興味深いのは、建設技術はすでに鋳鉄で巨大ドームをつくれるほど進歩していたにもかかわらず、建物のデザインは過去の建築を「真似」していたという事実です。
当時、アメリカは若々しい理想を掲げた新進の国でしたから、国会議事堂はそれに見合う新しい様式でデザインされていてもよかったのです。時代は18世紀末から19世紀前半です。まだ「近代建築」は生まれていません。
古典主義は「過去」に理想を求める建築様式です。古代ギリシアやローマに原点を置いています。当時、古典主義の建築家が考えていたのは、現在は不完全であり、真理は「過去」にあるという建築観でした。したがって意識は常に後ろ向きです。コルビュジェのような近代人から見れば、固定観念に縛られた不自由な人種だったのかも知れません。
21世紀の今、仮にアメリカ合衆国の国会議事堂を新しくデザインするとしたら、どんな建築になるでしょうか? 例えば、20世紀には「ソビエト宮殿」のコンペで「政治建築」の姿が問われました。その時コルビュジェが示したのは、建設技術の進歩を意匠上のインパクトに転換し得た印象深いアイディアでしたね。