水平と垂直 2004.11.07

Chicago competition

1922年米国シカゴで新聞社の国際コンペが行われました。ここで「水平と垂直」が近代と古典の対比として明確に表現されたのです。
このコンペはシカゴ・トリビューン社が開催したものです。賞金総額10万ドルの大きなコンペで、米国とヨーロッパを中心に250案を超す応募があり、サ−リネン、グロピウス、ロースなどのビックネームの案も見られました。一等はニューヨークの建築家レイモンド・フッドとジョン・ハウエルズによる案で、賞金5万ドル。直ちに実施に移されました。それが写真左です。そして右が落選したグロピウス案です。この2つは際立った対比を示しています。それは外観に表現された「水平と垂直」です。
結論から言えば「水平」は近代、「垂直」は古典ですね。高層ビルなので上へ伸びてゆくイメージから垂直は自然な表現です。実務的な仕事が多かったレイモンド・フッドたちがビルの意匠をゴシック調にしたのは順当なやり方でした。「垂直」に上に伸びてゆく新社屋はオーナーの意向にも沿うものだったでしょう。したがってグロピウスの「水平」は作為に満ちた選択だったことが推測されます。
当時シカゴでは鉄を使った新しい建設技術が生み出されていました。鋼材を建物の骨組みに使用することです。柱と梁を格子状に組みあわせてフレームをつくり建物の骨組みとしたのです。ラーメン構造ですね。実はシカゴの地盤は軟弱なので建物の基礎と構造体をなるべく地面と平行に、平らにすることが必要だったのです。これが「水平」の実際上の原因です。同時にフレーム構造は合理的かつ経済的でした。そんなわけで、シカゴではオフィスや百貨店などの大規模な建物にフレーム構造が普及したのです。背景には鉄が大量生産できるようになったことも挙げられますね。
この時シカゴでは、窓を「水平」に連続させることが構造体のシステムからくる自然な流れとして流行します。この横連窓のスタイルをシカゴ窓と言いますね。ついでに当時シカゴで活躍した建築家たちをシカゴ派と言います。
さてここでグロピウスの案を見てみましょう。外観はフレームとして表現され、全体に水平方向が強調されています。よく見るとシカゴ窓もちゃんとデザインされています。全体から合理性と抽象性を合わせもつ近代建築の特徴を読みとることができますね。一方、レイモンド・フッドの一等案は中世ゴシック様式を直観的に表現したクラシックな表情をもっています。この表現はネオゴシックと言われ当時のニューヨークで流行していました。ゴシックの垂直性は超高層ビルにふさわしいものです。
日本のコンペにも「水平と垂直」が対比的に現われた例がありました。東京都が主催した新庁舎のコンペですね。新宿に超高層の事務所ビルを計画するものです。一等の丹下案は「垂直」、落選した磯崎案は「水平」でした。