篠山紀信と磯崎新の「建築行脚」

磯崎「篠山さんの写真と僕との出会いは、ガウディを一緒に見てまわったのがそもそもの始まりでしたね。その時気がついたんだけど、これまで僕が理解していた建築写真と全く違う目を篠山さんは持っている。建築は生きているものだと思うし、その生きざま、存在感を、篠山さんは直感的に写し撮ることができる人だということが分ってきた。」

篠山「そう、あれがきっかけでしたね。だいたい僕は建築に関しては全く無知だったし、ほんとに初歩的なことから磯崎さんに教えてもらわないとわからなかった。ただ、その空間に浸っているうちに「あ、わかった」という瞬間があるのね。

このシリーズの建物は、大部分ができてから何百年、何千年と経っているものですが、その何千年の中にも、天気のいい日もあれば、雨の日も風の日もあったはずだ。僕が行った時に風が吹いていたら、風が吹いている中の建物と出会えたんだから、その出会いを大切にしようと。だから、これは建築写真というよりは、ドキュメンタリーに近いんじゃないか。」

磯崎「そこに、二人で行脚している意味があると思いますね。ある特定の時と場所を二人で感じたり語ったりしたことが、写真なり文章にはね返ってくる。そういったことがこの企画の基本にあるわけで、これまでの美術全集や建築写真集と、一番違う点になると思います。」

第10巻「幻視の理想都市」の取材体験について語る篠山と磯崎

左は監督官の館 正確に南面して全体の中心に配置されている