40/75 シカゴ・トリビューンのコンペ

ken1062007-02-21

1922年に行われたシカゴ・トリビューン社 Chicago Tribune のコンペ案です。左側がレイモンド・フッド+ジョン・ハウエルズ案、右側がグロピウス案です。2つの案は「垂直/水平」の対比を示しています。これは同時に「古典/近代」の対比でもありました。
コンペに勝って、実際に建てられたのはレイモンド・フッド Raymond M. Hoodジョン・ハウエルズ John Mead Howells 案です。しかし、1922年の時点で建築の歴史を切り開くようなアイディアに溢れていたのはグロピウス Walter Gropius 案でした。
2案を並べると「垂直」は古典、「水平」は近代という図式が明確に見えてくるかと思います。レイモンド・フッドたちがビルの意匠をゴシック調にしたのは順当なやり方でした。「垂直」に伸びてゆく新社屋はオーナーの意向に沿うものだったのです。実務的な仕事が多かった彼らにふさわしいデザインです。
一方、グロピウスの「水平」案はすでに近代建築の姿をしています。しかも彼の「水平」は表面的なデザインではありません。
当時シカゴでは鋼材を建物の骨組みに使用して高層建築をつくる技術が実績をあげていました。柱と梁を格子状に組みあわせたフレームを建物全体の骨組みとする、いわゆる「シカゴフレーム」による構造が用いられていたのです。
もともとシカゴの地盤は軟弱で、支持力が比較的小さいという難点がありました。したがって、構造体や基礎の底面を平に広くする必要があったのです。こうした条件のもと、経済的な高層建築をつくるには「シカゴフレーム」が適当だったのですね。
また、構造体のシステムからくる自然な流れで、窓を「水平」に連続させる「シカゴ窓」が普及していました。
というわけで、グロピウス案の「水平」は「シカゴフレーム」をベースにした筋の通ったアイディアだったのです。よく見るとシカゴ窓もちゃんとデザインされています。
このシカゴ・トリビューン社の新社屋建設コンペは賞金総額10万ドルの国際コンペとして大々的に行われ、米国とヨーロッパを中心に250案を超す応募がありました。中には、サ−リネンやロースなどのビックネームも含まれています。一等は賞金5万ドルで、「垂直」案のレイモンド・フッドとジョン・ハウエルズが選ばれています。案は直ちに実施に移されました。しかし、彼らはニューヨークを拠点にしていたのでシカゴの建築界ではよそものでした。