距離と時間 2004.11.24

schroder house

これはシュレーダ−邸の図面です。1924年オランダのユトレヒトに建設された住宅で、近年リニューアルされました。デザインしたのはデ・スティルの建築家リートフェルトです。

この図面からデ・スティルの特徴を読み取ることができます。単純な図形。原色の使用。それらを自立させ相互の関係を確定しない構成。これらはデ・スティルの特徴ですね。実際に建設された建物の図面ですから壁や家具が空間を規定していますが、デ・スティルの特徴によってその規定は一つの可能性にすぎないことが暗示されています。コンポジションを追求する中で、現実に施工するために必要なとりあえずのプランにすぎないというわけです。

ところで、「距離や時間」は人間の感覚で捉えた場合、長くなったり短くなったりすることがあります。メジャーや時計で測った物理量と一致しない、人間の心理が反映する可変的な量だからですね。人間が実際に建物の中に入ったとき、「距離や時間」の感覚は様々なかたちで知覚されます。物的条件や設計者の意図によって、建築空間は多様な働きかけを人間に及ぼすことが可能なのです。

このことをシュレーダ−邸の図面から読み取ることができるのではないでしょうか。建物の構成要素が確定せず、つねに別の可能性に向かって開かれているのは空間の豊かさを示す証拠です。建物を訪れた人にとっての距離感と時間は千差万別、個人によって違い、体験される空間は多様です。シュレーダ−邸のプランはこの事実を増幅して感じさせる強い個性をもっているように思います。そして、この可能性を目に見えるかたちで表現した点がこの図面のすごいところでしょう。