「死」 15/75

ken1062006-10-20

ロンドンの St Pancras Old Church にある建築家ジョン・ソーンの墓です。ソーンはイングランド銀行やダリッチ・ピクチャー・ギャラリーなどの設計で知られる英国を代表する建築家です。この写真でも見られるように、ゆるいヴォルト屋根がソーンの特徴です。自身の墓にもそのデザインが使われていて、ソーンを偲ぶには最適だと思います。
建物でも人間でも、この地上から消えてしまったとしても、その記憶が人々のなかに生きているかぎり本当に消えてしまった訳ではない。墓はその記憶を確かめたり、慰めたりするために、まだ地上に生きている人間が必要とするものです。そういう一面があると思います。
ところで、建築の「死」とは一体どういうことでしょうか。例えば、一つの答えとして、実現した建物でも、形而上の「建築」でも、人々に忘れ去られることが「死」であると考えられます。その建物には誰も来ないし、存在を誰も知らない。そうなれば、この地球上に人知れず建っていても、その建物は「死」んでいるのです。あるいは、ウィトルウィウスの「建築十書」はローマ時代に書かれたあと、ルネッサンスで再発見されるまで数百年間、忘却の彼方にありました。その間「建築十書」は「死」んでいたのです。
こんな風に「死」とは記憶や時間と深い関係がある言葉ですね。