建物の重さ 2004.11.28

Zaha the Peak

ザハ・ハディドの「ザ・ピーク」コンペ当選案です。ザハ・ハディドイラク生まれの英国建築家ですね。このドローイングは彼女が1983年頃描いたものです。建築が分解し飛散するようなイメージは、建物が重力から解放されたことを示しています。そして同時に建築が重力に縛られて身動きならない存在であることを改めて知らしめてくれるでしょう。見なれた景色に亀裂が入り、普段は見えない現実の切断面が露呈してくる。そして本当のきつい現実を垣間見てしまった。このドローイングの裏面に潜んでいるイメージは建築と重力の身動きならない宿命です。
建物を実現させるためには絶対に避けられない事実があります。それは建築物が重さをもち、地面に定着し、周囲の条件と折り合いをつけるべきことです。この事実がいかに建築家の頭を縛り、イメージの飛躍を妨げているか。しかしザハ・ハディドの「ザ・ピーク」は違いました。ここでの提案は、建築物に重さがある点も地面に定着すべき点も否定し、さらには地形さえ新たにつくりだすことが目論まれています。パワフルで極めて野心的なアイディアですね。実は建物の構成要素が重力から解放され、飛散してゆくイメージは1920年代のロシア・アヴァンギャルドにおいて開発されたものです。ザハ・ハディド女史自身がその影響を認めているように、「建築の限界を拡張する」ことを目指したロシア・アヴァンギャルドの作品からインスピレーションを得たようです。ザハ・ハディドの「ザ・ピーク」がユニークなのは、建物が空中で分解し地形と絡み合いながら新たなランドスケープをつくりだすことまでイマジネーションが広がったところです。
コンペの内容は香港の見晴らしのいい山の上に高級クラブをデザインすることでした。住居、スポーツ施設、バーなどの機能が要求されていたようですが、ザハ・ハディド女史の提案はそれらを満たしつつも、コンペ主催者の予想を遥かにこえるイメージをもっていました。審査員として彼女の案を選びだしたのは日本の建築家磯崎新氏でした。残念なことに1位案として実施に移されるはずでしたが、結局実現しませんでした。後年、高知県坂本龍馬記念館のコンペが行われ、1位として実現した案はザハ・ハディド女史が「ザ・ピーク」で提示したイメージに似ています。このコンペでも磯崎氏が審査員として案を選びだしています。邪推すると、ザハ・ハディドの「ザ・ピーク」は高知県で龍馬記念館として実現した。その黒幕は磯崎新氏。