建築様式 2004.10.29

ジュリオロマーノ

本流からはずれた建築です。おかしなデザインです。これはジュリオ・ロマーノという建築家によって設計された貴族の館ですね。1534年イタリアのマニトバにつくられました。パラッツオ・デル・テと呼ばれています。しかしこの建築、同時代のセルリオやヴァザーリが絶賛した名作とされているのです。奇想、矛盾、逸脱などのイメージで語られる不思議な建物です。写真で見るように、梁の一部がづり落ちたり、他にも不規則な柱割り、グロテスクな壁画など多くの奇抜なデザインに満ちています。どうしてこんなデザインがなされたのでしょうか。それは時代状況に由来しています。
この建物が建てられたのはルネッサンスが終わりに向かうマニエリスムといわれる時期でした。盛りを過ぎた斜陽の時期です。様々な可能性が試され、アイディアが出尽くした時代です。そんな雰囲気の中でジュリオ・ロマーノは皮肉に満ちたデザインをしたのですね。写真のように建築様式をもてあそぶような感性はとても興味深いものです。様式のルールを破るデザインはミケランジェロを筆頭に多くのアーティストが試みましたが、ジュリオ・ロマーノのパラッツオ・デル・テは今でも参照される大作です。
ところで、「様式」に対してルールを破る行為は20世紀になっても存在しています。それは米国の建築家ロバート・ヴェンチュ−リがデザインした「リーブハウス」の例ですね。建物の竣工は1967年。ヴェンチュ−リは「醜悪で普通」な家をデザインしました。これは彼一流の言い回しと理解していいと思いますが、ヴェンチュ−リの意図はアメリカの平凡な住宅地の退屈さを逆手に取ったものでした。本人のコメントによると「敷地環境が醜悪で普通だったから。つまりは、規則的に割り付けられた土地に電柱と電線ばかり、建築をバックアップするものは皆無、、、」であり「こぎれいなものをここに押し込むとさらにこの環境は悪化すると考えた。そこで、むしろここの風景に合わせて醜悪で普通なものを考えた、、、」
「リーブハウス」がデザインされた時代背景には、近代建築に対する疑問がクリエーター達に蔓延していたことが指摘できます。ヴェンチュ−リは彼の著作「建築の多様性と対立性」で古典建築と近代建築を独自の視点で分析しました。「リーブハウス」をデザインするに当っては、時代の閉息感に反応したのでしょう。「醜悪で普通」な家は、マニエリスムの建築と考えていいような気がします。