ゲニウス・ロキ 2004.10.13

Picturesque

庭園をこの絵の風景のようにつくることをピクチュアレスクといいます。18世紀のイギリスで始まりました。ピクチュアレスクという言葉は1720年頃、詩人のアレグザンダー・ポープと建築家のジョン・バンブラが考えたとされています。絵に描かれた風景のように庭をデザインすることは、幾何学庭園の作法と対立するものです。幾何学庭園は左右対称が原則で、色彩やかたちを明快に整然と配置してゆくのが一般的ですね。それに対して、ピクチュアレスク庭園は池に架かった橋や水車小屋を如何に見せるか、あるいは実際に歩いたときの庭の見え方、景色の展開を主眼にしてデザインしてゆきます。
さて、このピクチュアレスク庭園はデザイン根拠を土地の個性に求めるのが特徴です。その土地の歴史的、地理的、文学的な文脈を読み取り、それに基づいて物語を起こしてゆくのです。そしてその土地のユニークなストーリーが作られるのです。ピクチュアレスクな庭園はこうして作られたストーリーを反映するかたちでデザインされました。ピクチュアレスクという言葉がポープのような詩人によって命名されたのは、造園にこうした「文学的」な作業があったからでした。
ところで、ピクチュアレスク庭園は建築に対してちょっと特別な意味をもっています。というのは「建築」がピクチュアレスクによって芸術としての地位を落とされたのです。18世紀のこの時期、「建築」はバロックロココに続く新しい様式を生み出せないでいました。そんな中、建築は風景の一部、あるいは単なる舞台装置のような役割をピクチュアレスク庭園で担わされるようになったのです。このことが一般的な「建築」の概念にまで影響を与え、全体として「建築」の文化的地位が落ちるという結果を招いたんですね。
ここで土地の個性が問題になったので、「ゲニウス・ロキ」にふれておきます。「ゲニウス・ロキ」とは日本語の「地霊」に近い言葉です。土地それぞれがもつ色んな文脈に注意を払い、個別的で具体的な様々なストーリーを見いだし、それらを土地に宿る霊に託して考えるのが「ゲニウス・ロキ」の基本的発想です。