建物の支配

シュペアー

ナチスドイツの建築家アルベルト・シュペーアが構想した「グレートホール」の模型です。右にあるのは、ブランデンブルク門ライヒスターク(国会議事堂)です。ベルリンの中心部にある主要建築物と比較すると、いかに桁外れのサイズかがわかりますね。ドームの直径は250m、収容人数は15万人とされています。ヒットラーが流浪時代に自身で考えたベルリン計画を託されたシュペーアは、都市のスケールを可能な限り拡大する装置を考えました。彼の信条はテクノロジーへの全幅の信頼に基づいているのが特徴で、建設技術と軍事技術を駆使してヒトラーの理想を現実化することに才能を捧げた人物と言われています。建築家として以上に技術官僚としてナチスドイツの軍事行政にも深く関わりました。

ドイツをファシズムに染めたヒットラーの国家戦略は、自国を神聖ローマ帝国ビスマルクの第2帝国に次ぐ第3帝国とすることでした。そしてこの第3帝国を千年王国と位置づけて、首都ベルリンをそれに見合った壮大な都市にするのが目標だったわけです。

シュペーアがデザインしたこの巨大ドームは、こうしたユートピアを現実化するための一つの都市装置として構想されました。18世紀末にフランスで幻視の建築家たちが描いた超巨大建築物はクライアント不在のまま時代が過ぎてゆきましたが、シュペーアの巨大ドームは国家という最強のクライアントを得て、本当に建設される段階まできたんですね。建築様式としては新古典主義の建物です。この様式は意匠的にはクラシックですが、建物のスケールが時代の要求に従ってどんどん拡大されたのが特徴です。シュペーアのドームはその極致をゆくデザインですね。ヒットラー千年王国にふさわしいスケールが要求されたわけです。

優秀なエンジニアであったシュペーアですから、この巨大ドームを建設するための技術的な裏付けはもっていたでしょう。そして、それと等しい能力を戦争にも発揮したところがポイントです。シュペーアは建設と破壊が同じ概念の表裏だったことを身をもって示した人物かもしれません。この概念を敷衍すれば、建築と戦争は密接な関係があることになりますね。この関連を明確にするのがテクノロジーです。建築も戦争もテクノロジーの裏付けを必要とするところが共通しているからですね。

cf2004/1031