壁 2004.12.17

Doesburg

これは「4次元空間のカラーコンストラクション」と題されたドローイングです。デ・スティルという1920年代に起こった芸術運動の中心的存在だったドウ−スブルフが描いたものです。ここには特筆すべきアイディアが表現されています。それはタイトルにある通り「4次元空間」の可能性ですね。「4次元」をここでは3次元の一つ上、立体の世界に「時間」が加わったと考えてみます。
そこでこのドローイングを見てみましょう。壁と床は区別されていません。空間の構成要素として抽象化されていますね。そして、それらはバラバラとなって3次元空間に浮遊しています。つまり構成要素は特定の位置に固定されず、複数のポジションで相互の関係をつくり得ることが暗示されているわけです。見方を変えれば、空間の構成要素が時間軸の上で関係性を変化させる可能性が示されていると考えられます。このことが「4次元空間」の可能性というわけですね。また色については、白黒と3原色が使われています。水平要素と垂直要素のどちらにも同じ色が使われていることから、「壁」と「床」の区別を消す効果を意図していたことが伺えますね。
こうして壁でも床でもなくなった空間の構成要素は、重力場から解放され、一ケ所にとどまらず移動を続けることが可能になりました。そして、建築空間は流動し、形態は無限の可能性を獲得したといえそうです。これは建築の歴史におけるエポックです。建築が場所性や歴史性のしがらみを断ち切ったからですね。
一般に石やレンガを積み上げてつくる壁は、重力場においてその場を限定しスペースを確定するものです。可能性の限界を象徴します。しかしこのドローイングはこういう常識から限りなく自由です。重苦しく建築を重力場につなぎとめていた壁は、ここでは床との区別もなく自由に流動し、建築形態の可能性を限定することがありません。つまり、壁や床は抽象化され、赤青黄の原色を伴って「無限」のかたちがありえることを暗示していると考えられるのです。近代建築の巨匠ミ−スが提案したユニバーサルスペースはこれに似たアイディアです。しかし、ここで示された無限定の可能性はそれに先行しています。ミ−スのユニバーサルスペースは近代建築のドグマとして一般化したので、ドウ−スブルフのアイディアは現在の我々に比較的遠く感じられるかも知れませんね。ついでに一つふれておくと、ロシアで起きたアバンギャルド運動でもやはり同様のアイディアが考えられていました。オランダを中心としたデ・スティルと同時期のことです。