社会的サインとしての外観 2004.11.11

Elisha Otis eletator

これはエレベーターの試作品が博覧会場で披露されている様子です。紹介している紳士はエレベーターの実用化に尽力したオーチス氏です。このときエレベーター開発の要だった安全装置の性能をオーチス氏が多くの見物客の前で実演したと言います。1854年にニューヨークで行われた博覧会でのことでした。
ところで、エレベーターは高層ビルを機能させるのに不可欠の設備です。どんなに高い建物がつくれても、実際に人間やものを上階に移動させるにはエレベーターの力がどうしても必要ですね。高層ビルが建ちならぶ都市において、垂直方向の移動手段としてエレベーターはなくてはならない都市装置といっていいでしょう。
建築物は一般に外観で何の建物かがわかるべきです。スーパーマーケット、本屋、レストラン、銀行といった建物の種類が外観ですぐ判断できるのは社会的ルールですね。「らしさ」が必要です。外観は社会的サインなのです。
しかし、高層ビルはこのルールに反しています。さまざまな種類の建物をテナントとして内部に抱え込み、外観はそれらを反映していないことが多いですね。建築の機能が外観に現われる一対一の関係が崩れてしまったわけです。高層ビルはこうしたある意味新しい建築のありかたをつくり出したわけですが、それを可能にしたのはエレベーターの存在だと言っていいでしょう。喫茶店、事務所、映画館というような多くの機能が垂直に積み上げられている高層ビルにおいて、まちの動線と内部にあるそれらの機能を接続しているのがエレーベーターという訳ですね。単体で存在するとき有効だった外観の社会的サインは、エレーベーターの存在によって作用しなくなっていると考えることが可能です。