36 哲学者のデザイン

wittgenstein

裸電球が一つあるだけの玄関ホール。設計したのは哲学者ヴィトゲンシュタイン。彼は建築家エンゲルマンの協力のもと一軒の住宅を設計しました。ウィーンに建つ実の姉の家です。彼女の姓名をとってストンボロウ邸とも呼ばれています。デザインはロース的です。エンゲルマンがロースの弟子だったことや、ウィーンという土地がらにも関係していますが、ヴィトゲンシュタイン自身の設計姿勢によってロース的デザインになったと考えられます。ヴィトゲンシュタインは天才肌の人物で、言葉と概念の世界を他の誰よりも徹底して考えぬいたハイテンションの哲学者です。その彼が建築の分野でも自分のやり方を貫いたのですね。「考えぬいた」結果、建物はシャープに簡略化されました。白の天井と壁、黒の床、スチールの建具と設備機器、そして裸電球。特徴的なのが寸法への偏執狂的こだわりです。サロンの天井高が気になって、完成していたにもかかわらず、わずか3.2cm高く作り直させたという話があります。住宅なら当然あるはずのジュータンやカーテンまでも一切拒否しました。

ヴィトゲンシュタイン邸 1926 設計:エンゲルマン+ヴィトゲンシュタイン