21/75 表象システム

ken1062007-01-23

ベラスケス Velazquez の「ラス・メニーナス」Las Meninas(侍女たち)です。1656年スペインで描かれました。プラド美術館を代表する作品ですね。よく知られているように「ラス・メニーナス」には興味深いトリックが隠されています。それは「この絵を見ることは、同時にこの絵のモデルとして見られている」というものです。
フランスの哲学者フーコーは名著「言葉と物」のなかで「ラス・メニーナス」を取り上げ、「見ること、見られること」を考察するための手がかりにしています。そして「表象システム」という概念を考えました。フーコーはこの「表象システム」が文学、芸術一般において18世紀末に大きく変貌したと言います。それはルネッサンス以来続いてきた古典主義時代の終焉を意味する大変化でした。
18世紀末はフランス革命(1789年)の時代です。建築の分野ではバロックロココ様式が終焉し、やはり古典建築の時代に幕が降りています。ブレやルドゥーが幻視の巨大スケール建築物を夢想し、刺激的なドローイングを作成したのは、ちょうど革命前後の時期ですね。建築の分野における古典主義時代の終焉を「空間の爆発」と呼ぶこともあります。「幻視の巨大スケール」はまさに「爆発」でした。
フーコーは「言葉と物」で「古典」が消えた結果、新たに「人間」という概念が生まれたと言っています。これを「近代」のスタートと考えることができるかも知れません。
最後に「ラス・メニーナス」のトリックについて簡単に説明しておきます。まずこの絵を見たとき目に入るのは中央に描かれたマルガリータ姫です。傍らには侍女がいますね。そして左側に巨大なタブローがあり、一人の紳士が立っています。実は彼がベラスケス本人です。彼はタブローに向かって絵を描いている様子ですね。ということは、この絵を見ている我々が、逆にモデルとしてベラスケスに描かれていた。これが「見る=見られる」の関係が逆転する面白いトリックという訳ですね。
しかし、このトリックには続きがあります。「ラス・メニーナス」の画面中央、奥の壁に掛けてある鏡には上半身の夫婦が写っています。この夫婦こそフェリペ4世と王妃です。したがって絵を見ている我々は、フェリペ4世と王妃の目線で「ラス・メニーナス」を見ていたことになりますね。そして、モデルはこの二人だったことが判明します。
さらに付け加えると、奥の出入口に立っている男性こそベラスケスだという説もあります。彼はこの空間で起こっている「見る=見られる」の関係を外部から眺める立場にいます。階段上にいるので、動作の途中です。この場から立ち去ろうとしているのでしょうか?