30/75 移動する「部屋」

ken1062007-02-07

ゲル(中国語でパオ)で生活しているモンゴルの人々です。彼らは草原を移動して暮らしていますね。彼らのように生活の場を移動させて暮らすスタイルでは、「家」という概念が一般的な感覚とどのように違うのでしょうか?
本来、家は動かないものです。だからこそ土地の伝統や風土と結びついたり、町並みを形成したり、さらには住み手の精神的な拠り所にもなり得るわけです。
ちょっと仮定してみると、例えば「ゲルは家ではなく、一つの部屋だ」と思ったらどうでしょうか。「家」は草原です。ゲルで移動する草原や高原全体が一つの家。その家の中に移動可能な部屋=ゲルが点在している。
実際、古来からモンゴルでは遊牧のための草原を非常に大切にする習慣があります。地面を掘ったり耕したりすることに彼らは嫌悪感を持っていました。大地を神聖視する感性をもつ民族なんでしょう。同じ大陸に住む漢民族がやってきた大規模な土木事業を冷ややかに受け止めてきたようです。
ところで、ゲルにはモンゴル型とトルコ型の区別があって、写真のゲルはモンゴル型です。部材は軽い材料で作られていて、屋根はフェルトでできています。天頂には採光と換気用の穴が設けられています。風雨対策で布の天幕をかぶせています。ゲルは解体すれば、台車に載せて人力で運ぶことができます。なんだか「部屋」というより「こたつ」のような気がしてくるかも知れませんね。